ここでは本研究全体の概要について説明いたします。
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◇研究の概要
(1)はじめに
東北アジア(中国、台湾、韓国、日本など)だけでなく、東南アジアを含めた範域としての東アジアの発展はめざましい。こうした発展を背景に「東アジア共同体」という概念も生じている。しかしながら、東アジアの発展として注目されているものは多分に大都市(圏)・首座都市の発展であり、地方社会の問題は十分に視野には入れられていない。議論の対象になる論点も、新中間層、市民社会、消費社会など大都市的あるいは都会的テーマが中心である。こうしたなかで、いわゆる「中央と地方の格差」は拡大している。
東アジアの地域的特性は、その地理的な広域性に象徴されるように、広大な地方社会を内包していることであり、同時に内部に多様な地方文化が息づいていることである。このような多様な地方社会に立脚した社会発展なしには、「東アジア共同体」も実現しえないであろう。したがって、東アジアの地方社会の解明を様々な側面から強化する必要がある。
本研究プロジェクトは、以上のような認識のもとに実施される。とくに、地方社会を、地方都市(町)−周辺農山漁村の関係から成り立つ「地方的世界」として位置づけ、この「地方的世界」に焦点に当てる。そして、この「地方的世界」の原理と伝統の仕組み、近代化や現代化における変動や動態をそれぞれの「地方的世界」の特性や固有性に注目しながら解明し、21世紀の「地方的世界」の豊かで持続可能な発展に必要な課題や条件を示すことを目的とする。
地方社会を「地方的世界」として捉えるのは、東アジアの地方社会が、伝統的にまさに「世界」を形成してきたからである。東南アジア社会分析の方法論として存在してきたマンダラ論やムアン・ヌガラ論によって、その特質の一端は示されるところである。古くより国家形成がなされた東北アジアでも、たとえば中国国内では多民族性や地方性の豊かさを背景とする地方文化が、日本ではナショナルな意味ではなくローカルな意味での「国(くに)」概念・文化が長らく存在してきた。
(2)研究の内容
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金による「東アジアにおける『地方的世界』の基層・動態・持続可能な発展に関する研究」(基盤研究A)として、平成19年度より平成22年度まで実施される予定である。本研究を通じて解明する内容を示せば、以下のように要約できるであろう。1)各「地方的世界」の歴史的形成プロセスを、社会史的あるいは歴史社会学的な視点から分析する。それを通じて、「地方的世界」の実在性、そして基本原理と文化的特質を明らかにする。つまり単に歴史的事実関係を明らかにするのではなく、一つの「世界」としての形成の意味や論理を解明する。歴史的な形成のなかにこそ「地方的世界」の根幹が内在しているからである。 2)各「地方的世界」の近代における変動や動態を分析する。植民地化、国民国家形成、東西冷戦体制の構築といった経験は、「地方的世界」の存立に大きな変化を与え、その構造性、あるいは社会における位置に大きな変化をもたらしたからである。この近代のプロセスに生じた展開の意味を十分に解明することによって、「地方的世界」の現代的可能性を考える。
3)各「地方的世界」のグローバリズムの下における変容を分析する。都市化、情報化、人の移動・流動化といった現代的な要因が、「地方的世界」に何をもたらしているかを明らかにする。つまり現代的な変化が、「地方的世界」にどのような新たな方向性を生み出しつつあるかを、その妥当性を含めて解明する。
4)以上の各「地方的世界」の分析にもとづいて、東アジア内部の「地方的世界」を比較し、東アジアの「地方的世界」の社会文化的な共通性と多様性を明らかにする。同時に、歴史的かつ現代的な問題の所在を明らかにする。各国(地域)間だけでなく、圏域性、立地性、政治制度、宗教文化の違いを踏まえた比較を行う。
5)以上の諸分析にもとづいて、各「地方的世界」、さらに東アジア全体における「地方的世界」の現代的な再生、そして持続可能な発展のための課題や条件を、ナショナリズム、グローバリズム、エスニシズムなどと関連づけて明らかにする。
藤井 勝(神戸大学大学院人文学研究科)
◇メンバー一覧
▽研究代表者
藤井 勝 (神戸大学大学院人文学研究科・教授)
▽研究分担者(あいうえお順)
奥井 亜紗子 (京都女子大学現代社会学部・講師)
樫永 真佐夫 (国立民族学博物館民族社会研究部・准教授)
北原 淳 (龍谷大学経済学部・教授)
日下 渉 (京都大学人文科学研究所・助教)
黒柳 晴夫 (椙山女学園大学文化情報学部・教授)
小林 和美 (大阪教育大学教育学部・准教授)
佐々木 衞 (神戸大学大学院人文学研究科・教授)
首藤 明和 (兵庫教育大学大学院学校教育研究科・准教授)
白鳥 義彦 (神戸大学大学院人文学研究科・准教授)
長坂 格 (広島大学大学院総合科学研究科・准教授)
魯 ゼウォン (天理大学国際文化学部・准教授)
高井 康弘 (大谷大学文学部・教授)
竹内 隆夫 (立命館大学国際関係学部・教授)
橋本 卓 (同志社大学法学部・教授)
橋本(関) 泰子 (四国学院大学社会学部・教授)
福田 恵 (東京農工大学農学府・講師)
油井 清光 (神戸大学大学院人文学研究科・教授)
▽主な連携研究者・研究協力者(国内のみ)
オンパンダラ パンパキット(神戸大学大学院国際協力研究科・助教)
田村 周一 (神戸大学大学院人文学研究科・学術推進研究員)
タンタン アウン (名古屋大学大学院経済学研究科付属国際経済政策センター・研究員)
林 大造 (神戸大学都市安全研究センター・講師)
藤田(藤枝) 直子 (大谷大学真宗総合研究所・協同研究員)
劉 梅玲 (神戸大学・学術研究員)
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